第5章 旨いバランス
日下部さんに連れられて講習を受けていた教室から少し離れたところにある面談室に入った。
「えっと…日下部さん?」
「座れ。二者面談だ」
「あ、はい」
椅子に座ると日下部さんが向いに身体を斜めにして座る。
足を組んで、鋭い目で推し量るように俺を見る。
しばらく続く沈黙がかなり気まずい。
いや、たぶん100%のことだってことはわかってる。
今日こそは「と一緒にいるのは俺の意志です!」って言うんだ。
そう心の中で決意して、日下部さんの刺さる視線と対峙した。
「甘井、お前、今すぐ狐塚から離れろ」
俺が話し出す前に日下部さんがそう言った。
そして、何枚かの紙が束になった書類を俺の前にバンと置いた。
「狐塚についての詳細調査の報告が昨日上がってきた」
テーブルに置かれた報告書に視線を落とす。
名前
性別
生年月日
現住所(不明)
本籍住所
家族構成
家族構成の欄に書かれた家族の名前の後ろには全員(死亡)の文字があった。
欄外にはそれ以外の親族(死亡)とも書いてある。
は天涯孤独ってことなのか…?
「お前、これ、どう思う?」
俺が家族構成の欄を見ていることに気づいたようで、その欄を指でコツコツと叩いて訊いてくる。
「いや…親兄弟、親族まで全員いないって少し可哀相…かな…?」
同情しているワケではない。
呪術師の家系みたいだからそういうこともよくある話なのかどうかは今まで呪術とは無関係のパンピー出身の俺にはわからない。
でも、自分の親兄弟、親族に至るまで全員いないなんて…
そこから一人で必死に生きてきたんだな。
それは一般的に可哀相って言ってもいいんじゃないかと思った。
「そうか…じゃあよ」
日下部さんの指が一枚紙をめくる。
「こっちを読んでどう思う?」
二枚目の書類には『事案報告書』と書かれていて、文字よりも先にいくつか並ぶ写真の方が目に入った。
血の飛び散った部屋や血塗られた死体。
凶器。
首を吊っている人。
かなり凄惨な現場だってわかる。
これがの親族が全員死ぬことになった事案か。
はどうして助かったんだろう?
こんなのに巻き込まれなくてよかった…
そう思いながら文字の方にも目を走らせる。
そして止まる。
え?2018年11月6日?