第5章 旨いバランス
で、ここからは驚くべきことなんだけど、この一ヶ月、は俺に、てか(こっちはたぶん)誰にも術式を使っていない。
まぁ、講習時間に俺以外の奴と話すこともないし、俺に至っては術式を使わなくても言うこと聞いてるからなのかもしれないけど。
日下部さんは女狐って言っていたけど、狩猟モードじゃないは猫のようだった。
何もない時はベッドでゴロゴロして漫画読んだりゲームやってる。
たまに気が向いた時に俺にじゃれついてくる。
で、またゴロゴロする。
猫派の俺からしてみると、野良猫が懐いて家で寛いでるって感じでめちゃくちゃ可愛い。
「甘井、この漫画面白い!続きは?」
「甘井、このゲーム、どうやるの?」
「甘井、この動画見てみてよ」
「甘井ー」
「甘井ー」
美少年の擬態を解いている部屋の中でも笑うことが増えてきて、名前を呼ばれれば呼ばれるほど、こんな日常が当たり前になっていく。
これもの術式なのだとしたら、たぶん俺はもう手遅れだと思う。
一ヶ月があっという間で、こんな調子であと二ヶ月弱もあっという間なんだろうなって思ってた。
そんなある日。
講習中、日下部さんが俺の横まで来て止まった。
「75番。ちょっと来い」
え、今、講習中なのに?
「お前等は動画視聴な」
教室のスクリーンに動画が流れ始めた。
そして、日下部さんはの目の前で堂々と俺を教室の外へ連れ出した。
日下部さんはの方へ視線をやることはなかったけど、俺は教室を出る瞬間、チラリとを見てみた。
は唇を噛んで日下部さんを睨みつけていた。
その眼光だけでめちゃくちゃ肝が冷えた。