第1章 甘い受難
昼休みは少し長めの1時間半。
食堂に行って好きな物を食べていいことになっている。
食堂は講習参加者で溢れている。
時間をずらしてるのか高専の人達はいない。
俺はカツカレーとフルーツヨーグルトに蜂蜜をかけたやつ。
糖分はちょこちょこ取っておかないと術式が必要な時に低血糖を起こしたらたまったもんじゃない。
席について2、3口食べ始めた時だった。
「おにーさん、隣座ってもいい?」
「あ、どーぞ」
声の主まで確認せずにそう言ったが、聞こえた声が少年のものだと気付いて思わず横を振り返った。
少年は「ありがとー」とやっぱり人懐っこく笑ってイスに座るところだった。
出来ることなら関わらないようにしようと心に決めていたのに、もう既に俺の中の緊急アラートは鳴り始めた。
講習前に少年を取り囲んでたお姉様方が遠目からジロリと視線を送ってくる。
「おにーさんさ、同じクラスの人だよね?」
「あぁ、そうだな…いいのか?向こうに行かなくて」
少年はにこやかに話を続けるけど、俺はお姉様方の視線が非常に気になる。
「ん?あー、いいよ。もう十分話したし、オトコのコのお友だちも欲しーし」
午前中にお姉様方に向けていた笑顔が嘘のように冷めた声。
「それ、別に俺じゃなくても…」
「えー、だってあのクラスでおにーさんが一番年が近いかなって思ってー」
まぁ、この少年の次に若いのは俺だろうけど。
それにしても、こんな距離の詰め方。
虎杖みたいな根明って訳でもなさそうなのに。
「それにさ、おにーさんだって“ボク”のこと見てたでしょ?“ボク”さ、人に見られる仕事してきたからそういうのわかっちゃうんだよね」
気付かれてた。
けど、その視線が完全に危険人物の動向を観察していたものだとは思ってないみたいだ。
「ねーねー、おにーさんって高専の人なの?」
無邪気に訊いてくる。
その笑顔の下に本当に何もないのかはわからない。
「え、なんで?」
「だって、校舎内の歩き方とか食堂の使い方とか慣れてるなーって思って…違った?」
「いや…えっと…」
俺が高専関係者って公言していいのかわからない。
特にこの講習、名前やら術式の開示は御法度だから尚更。
「“ボク”、おにーさんについてきたから迷わず来れたんだ。ありがとー」
「あ、うん…」
それでも少年の安心しきったような笑顔は、俺の警戒心を緩めた。
