第5章 旨いバランス
「ちょ、…」
何とかを引き止めたくて声をかけたけど、
「“甘井”は“黙って”て」
術式で黙らされた。
二日ぶりに食らう術式はやっぱり強烈で、どうしても声が出ない。
だったら、と思っての腕を掴もうとしたけど、
「んだよ。“甘井”はそこ“動かないで”」
術式を追加されて動くことも封じられた。
まさに打つ手なし…
身動きも言葉も封じられた俺の様子を真っ先に察知した日下部さんが舐めてた棒付きキャンディーを噛み砕いた。
「てめぇ、今、使っただろ」
「えー、何のこと?先生、アタシの術式、知ってるんじゃないのー?」
「全部は知らねーよ。だが、他人を操る術式だろ?」
「ははっ、高専ナメんなって言う割にそれしかわからねーのかよ。ダッサ」
美少年の皮を完全に脱いだは見下したように嘲る。
瞳が獣のようにギラリと光る。
マズい、マズい、マズいって。
完全にの狩猟モード。
「アタシの術式、教えてやろうか?」
「いらねーよ」
「そんなこと言わないでさー。“日下部”先生、“聞いて”よ」
「っ!」
日下部さんが言葉を失ったのがわかった。
今、は日下部さんに術式使ったんだ。
嘘だろ?
日下部さんは一級術師で、その中でも一番って推されてる術師だ。
それでも、術式が通るのかよ…
「私の術式はさ、『忌名昏々』って言うんだ。名前を呼んだ相手に言うことを聞いてもらえるっていうしょーもない術式なんだけどさ、それでもまぁまぁ使えるまで持ってく方法がある」
え、なんでわざわざ術式の説明してんの?
「私が相手の名前を知っていること。これは絶対条件ね。ちなみにファーストネームの方がより効くよ」
ちょっと待て。
「こっからは強化条件。一つ、相手が私の名前を知ってる」
これって…
「二つ、相手が私の名前を呼んだことがある」
まさか…
「三つ、私の名前をどのくらいの期間と回数呼んだか」
術式の開示?
「さて、先生。さっきさー、アタシの情報はもう知ってるって言ってたよねー?」
はゆっくり日下部さんとの距離を詰めていく。
そして、捕まえた獲物をなぶるような強者の目。
一級術師を前にしても引けを取らない。
「頭の中でもいい。アタシの名前、何回呼んだ?」