第4章 塩辛い過去
頭の中の違和感がなくなると、急に思考がクリアになった。
夜中なのに眠気が来ない。
やけに頭の回転が良くなった感じ。
なんだこれ?
でも、嫌な感じはしない。
なんか甘い物でも食べようとコンビニに入った。
大好きなチョコレートを持ってレジへ行く。
何だろう?
店員の胸についてる名札に書かれている名前が妙に目に付く。
こっちが“鈴木”で、あっちが“佐々木”。
「お支払いはいかがいたしますか?」
“鈴木”がそう問いかけてくる。
何だろう?
この確信にも似た感覚。
そんなことができるって感覚。
「ねぇ“鈴木”、このチョコレート、“ちょうだい”」
「はい、どうぞ」
支払いもしていないのにテープを貼って私に差し出してきた。
「え?いいの?」
「はい、どうぞ」
何だ、これ?
今度は“佐々木”がいる方のレジに行く。
「いらっしゃいませ」
「ねぇ“佐々木”、レジの中のお金、“ちょうだい”」
“佐々木”はレジを操作して開けると入っていた札を鷲掴みにした。
「はい、どうぞ」
「え…?」
「はい、どうぞ」
“佐々木”は握りしめた札の束を私の手に握らせてきた。
何だ、これ?
私はチョコレートと札を握りしめたまま、呆然とコンビニを後にした。
違う店でも同じようなことをしてみた。
私が“名前”を呼んで“お願い”をすると皆その通りにしてくれた。
もしかして、これって……私の術式……?
今まで20年近くも発現しなかったのに?
今?
今更?
しかも、何この術式。
“名前”を呼んで“お願い”をきかせる術式?
しょうもない術式。
こんなん何に使うんだよ。
クソ弱いこんな術式。
それでも、私の術式だ。
まだ小さかったあの頃、欲しくて欲しくてたまらなかった私の術式。
なんだよ、あるんじゃん。
あったんじゃん!
あったんじゃん!!
私に芽吹いた力が私の持っていた術式だと確信した瞬間、私の中に湧き上がった感情は喜びでもなく、悲しみでもなく、腹の底から震えるほど狂気にも近い怒りだった。
そして、私は5年ぶりに実家に戻った。
私の姿はすっかり変わってしまっていて家の人達は驚いていたけど喜んでくれた。
術式もない弱い私が帰ってきた。
丁度よい畑が帰ってきた。
文句も言わないおもちゃが帰ってきた。
いいや、違うよ。
今度は私がお前らを喰う番だ。
術式の練習にも丁度よかった。
