第4章 塩辛い過去
木を隠すなら森。
全くその通りだと思った。
家を出た私は東京の繁華街に身を隠した。
人がうじゃうじゃいるから誰も私を見ていない。
誰も私を見つけられない。
いや、違う。
そんな中でも私を見ているヤツはいる。
私を見つけるヤツはいる。
そういう行き場のない子を食い物にする、悪いヤツ。
「ねぇ、君。何万?」
何の説明もなくそう訊いてくる。
あぁ、外の世界ではそういうことは金になるのか。
「アンタは何万出せるの?」
別に何万でもよかった。
搾取されている訳じゃない。
そう思えるならそれでよかった。
だから言い値で。
あとは。
「あと、何か甘い物をくれるなら、いいよ」
ご褒美がもらえるならやってやるよ。
だって、子どもの頃からそんなことしか教えてもらえなかった。
でも、家にいる時よりも随分よかった。
やる相手は自分で選べる。
たまに殴るようなヤツに当たることもあったけど、回数を重ねればそういうヤツは見分けられるようになった。
1年も経てば嫌な感じのヤツは分かるようになったし、嫌がるようなことをしないヤツ、本番は要らないっていう変わったヤツ、一緒に甘い物食べるだけで金をくれる変なヤツ…
そういう私にとって都合が良いヤツが分かるようになった。
でも、そういう都合の良いヤツも世間一般的には悪いヤツ。
私に近づいて来るヤツは皆みんな、悪いヤツ。
だから私もきっと、悪いヤツ。
そんな生活を5年近く続けていた。
5年経っても甘い物は大好きだったし、ご褒美の為に日々頑張っていた。
そんなある日のハロウィン。
私はいつもの繁華街に佇んでいた。
道行く人はいろいろな仮装をしていて、見ているだけで楽しかった。
私はやりたくないけどな。
道行くヤツらが「今渋谷がヤバいらしい」とか「通り魔があったらしい」とか「地下鉄が止まっているらしい」とか話をしているのが聞こえたけど、私には関係ない。
渋谷なんか行く予定はないし、通り魔に刺されたって困ることもない。
特に地下鉄なんて、乗ることもほとんどない。
私には関係ない。
そう思ってた。
ハロウィンの日がもう終わるという夜更けに、急に頭に衝撃が走った。
痛いわけじゃない。
ただ誰かに頭の中を弄られるような気持ち悪い感じ。
なんだコレって考えている間にいつの間にかそんな感覚はなくなっていた。
ただもとに戻った訳じゃない。
全てが変わった。
