第2章 酸っぱい執着
「ぁ、ありがとう…」
拭き終わったハンカチを返すとは引ったくるように乱暴に受け取った。
そして、その後は鋭い視線を突き立てられながら沈黙の時間を耐える。
背中を汗が流れ落ちていく。
が何か言うためにヒュッと息を吸っただけなのに、身体がビクリと跳ねた。
「ウソつき」
一言、そう言い放つと今度は不機嫌そうに視線を下げた。
(あ…)
放課後、お喋りしようというの提案に術式はかけられていなかった。
それに俺は自分の意思で承諾したんだった。
それに気付いた途端、に対する警戒心とか恐怖心とかよりも罪悪感の方が前に出てきた。
「ゎ、わりぃ…その…なんていうか……も、漏れそうで…」
見つかった場所がトイレで良かった。
から逃げたなんて言えなくて、それっぽい嘘で誤魔化せる。
バレたらまた「ウソつき」って言われそうだけど。
は再びジロリと睨む。
でも、さっきほどの鋭さはない。
「なんでこっちのトイレまで来んの?」
「……向こうでしたら、恥ずいから…」
小学生みたいな理由だが12、13歳辺りの感性に響いて欲しい。
「何、子どもみたいなこと言ってんだよ」
口調は冷たいが、どこか呆れたような雰囲気もあって、なんとか誤魔化せたのかなと思った。
「で、もういいの?」
「え?」
「もう漏らさないか聞いてんだよ」
「え、あ…あー、うん。もう大丈夫、だと思う」
今日はもう逃げることは出来ないだろうから観念する。
「そ。じゃあ、“甘井”」
あ、来た。
もう既に頭と身体は言うことを聞かない。
今度は何を言ってくるのか気持ちだけで身構える。
「お前の部屋に“連れてって”」
マジかー
名前のみならず部屋までバレんのかと心はげんなりするが、足はもうそっちに向かって歩き始める。
それについてくるは「“甘井”」と術式を重ねてくる。
「手ぇ、“繋いで”」
何事もないように差し出された手を引いて歩き続ける。
気持ち的には目的地まで飼い主を案内する犬なのに、傍から見たら俺が率先して美少年を連れ歩いているようにしか見えないのにはかなり抵抗はあるが、しょうがない。
部屋で適当に話をして、頃合いを見て帰ってもらおう。
……帰ってくれるよな?
そのくらいの不安しか抱いていなかった。