第2章 酸っぱい執着
いや、でもいくら可愛いお願い程度だとしても四六時中言うこと聞かされていたらたまったもんじゃない。
誰か高専の人に対策を相談したい。
家入さんだったら…。
『ふーん。美少年の可愛いお願いくらい聞いてやれば?』
脳裏に飄々とそう言う家入さんが思い浮かぶ。
家入さんは助けてくれなさそう。
じゃあ、日車さん。
『それは弁護依頼か?』
いや、欲しいのは弁護じゃない。
それに日車さんだって同じ時期に術師になったばかりで術式対策とか詳しいかわからない。
そうなるとやっぱり日下部さんかなー。
てか、日下部さん、朝、に名前訊かれてたけど答えなかったな。
もしかすると講師陣は参加者の術式のこと知ってるのかもしれない。
それだったら話は早い。
とりあえず、日下部さんに話そうと立ち上がり、個室を出た。
職員室はさっきまでいた校舎。
もうは帰っただろうか?
それともまだお姉様方に捕まっているだろうか?
最短距離で職員室に向かってと鉢合わせないように気をつけなきゃいけない。
あー、でも、日下部さんの名前、に教えちゃったって言わなきゃなー。
怒られるかなー。
考えることが多すぎる。
溜息をつきながらトイレから廊下に出た。
その時だった。
「“甘井”、トイレから出たら、手、“洗って”よ」
逃げてきたはずの声がすぐ横から聞こえた。
声からは昼間の可愛いらしさは消えていて、その代わりに冷めて大人びたものになっていた。
声をした方を見れば、出入り口の隣の壁に寄りかかりながら横目で俺を睨んでいる。
ヤバい、めちゃくちゃ怒ってる…。
そう認識する前に、俺は回れ右してトイレ備え付きの水道で手を洗っていた。
いつも手に水をつけているだけみたいにしか洗わない俺だけど、今日は石鹸をつけて水道脇に貼られている手洗いポスターよろしく綺麗に洗っている。
その様子を俺の斜め後ろで眼光鋭く仁王立ちで無言で眺めているが鏡越しに見えて冷や汗が噴き出る。
しかし、手を洗い終わればハンカチを差し出してくれた。
「あ、わりぃ…」
もちろんハンカチなんて持ち歩いてない俺は有り難く借りた。
無地にキツネのワッペンがついてるタオル地のハンカチ。
ハンカチを持ち歩いているなんて、は格好の割に育ちは良いのかもしれないなんて思う。