第19章 キスに焦がれる輪唱曲
「陽太くん・・・」
名を呼ばれて、ふと優子の方を見ると、思ったより近くに艶っぽい目で見つめる彼女の顔があった。唇がつやつやしてて、とても色っぽい。
心臓が、ドキドキする。
優子から立ち上ってくる女の子の匂いで頭がくらくらする。
よ・う・た・く・ん
ゆっくりと囁くようにボクの名を呼ぶ。可愛らしいピンクの唇がそっと動く。
そして、心なしか、少し顔が近づいてきたように感じた。
柔らかそうな唇。
優しい香り。
いつの間にか、彼女の温かい手がボクの手に重なっていた。
あの花火大会の夜と同じだ。彼女といると、まるで、魔法にかかったように頭がふわふわする。彼女の唇から目が離せない。
す・き・・・・
唇だけが動いた。音はなかったのに、確かに「好き」と言ったように思えた。
胸がどきんとする。まるで吸い込まれるように、ボクは身体を傾けていく。
このまま・・・キス・・・したい・・・。
「ご来場の皆さまにお知らせします。14時20分の回、入場が開始となります」
アナウンスが流れ、ハッとする。
あれ?ボク、今何しようとしていた?
「入れるみたい・・・。い・・行こうか」
優子はちょっとはにかんだように笑ったが、うんと頷いて立ち上がった。
映画の前にポップコーンと飲み物を仕入れて、ボクらはスクリーンに向かう。
劇場が暗くなり、予告編が始まる。程なくして本編が始まる。
この間、優子と映画を見たときはほとんど映画の筋が頭に入らなかったが、今回も、そうだった。主人公の男性民俗学者が、バディの女性刑事と連続殺人犯を追いかけているうちに、見知らぬ村の習俗に関わる若干ホラーな謎を解き明かす羽目になる、みたいなストーリーだということだけはわかった。
途中、優子は怖くなると、ボクの腕にしがみついたり、ボクの足に手を乗せてきたりするので、それが気になって気になってしょうがなかった。