第43章 勉強会・後日談
軽やかな足取りで去っていくその背中を、相澤は黙って見送っていた。
その手元で揺れているのは、先ほど渡した紙パックのミルクティー。
ユカリが普段よく飲んでいるものだ。
――元担任として、あいつの好物くらい把握していて当然だ。
やがてユカリの姿が廊下の角へ消える。
「…………」
相澤はしばらくその場に立ったまま、何も言わなかった。
(……相変わらず、自分の手柄だとは一切思っちゃいねぇな)
先ほどの無邪気な笑顔を思い出し、心の中で小さく溜息をつく。
格闘訓練の件だって、そうだ。
最近のヒーロー基礎科の授業で、爆豪と切島の近接格闘の動きが格段に良くなっていることなど、相澤の目をごまかせるはずがない。
相手の重心を最小限の力で崩す、独特の身体の使い方。
無駄を削ぎ落とした、鋭い踏み込み。
そして、相手の動きを読んで一瞬早く次の手へ繋げる判断。
――どれも、ユカリが教える時に見せる動きとよく似ていた。
かつて彼女の成長を一番近くで見守ってきた相澤には、それが誰の影響なのかなど、一目瞭然だった。
八百万のこともそうだ。
自分の力に自信を持てずにいた彼女が、一歩踏み出せるようになった。
その背中を押したのも、ユカリだった。
そして今回の上鳴。
勉強が苦手で、テスト前になるたびに悲鳴を上げていたあいつが、最後まで問題集に食らいつき、赤点を回避した。
それどころか、大幅な成績向上まで果たした。
細かなことまで一つひとつ挙げていけば、もはやきりがない。