第43章 勉強会・後日談
ユカリは手の中のミルクティーへ視線を落とす。
「でも、私が教えたのはあくまで勉強の仕方だけです」
「…………」
「実際に問題を解いて、最後まで頑張ったのは上鳴くん自身ですから」
謙虚にそう言うユカリに、相澤はしばらく何も言わなかった。
やがて、腕を組んだまま静かに口を開く。
「……それでもだ」
「え?」
「お前が教えなきゃ、あいつはあそこまでやってねぇ」
「…………」
ユカリが瞬きをする。
相澤は視線を廊下の先へ向けながら、淡々と言葉を続けた。
「勉強が嫌いな奴に、ただ『やれ』って言ったところで続かねぇ」
「……はい」
「分からないから嫌になる。嫌になるから手をつけなくなる。あいつはずっとその繰り返しだった」
ユカリは黙って聞いていた。
「だが今回は違った」
相澤がユカリを見る。
「お前が、あいつにも分かるやり方で教えた」
そして――
「やる気にさせたのは、お前だ」
「…………」
その言葉が、胸の奥へ静かに落ちていく。
ユカリは少しだけ目を伏せた。
「……そっか」
「だから、礼だ」
相澤がミルクティーを指差す。
「素直に受け取っとけ」
「……はい」
ユカリは小さく笑った。
そして、紙パックを両手で持ち直す。
「ありがとうございます、相澤先生」
「ああ」
「大事に飲みますね」
「別に大事にするもんでもねぇだろ」
「でも、先生からもらったので」
そう言って嬉しそうに笑うユカリを見て、相澤は一瞬だけ目を細めた。
「……ったく」
小さく呟いて、壁から背を離す。
「ほら。そろそろ行くんだろ」
「はい!」
ユカリはミルクティーを鞄へしまうと、第二訓練場へ向かって歩き出した。
数歩進んだところで、ふと振り返る。
「先生!」
「ん?」
「上鳴くん、本当によく頑張ってました」
「ああ」
相澤は短く答える。
「………知ってる」
その声を背中で聞きながら、ユカリは嬉しそうに笑った。