第39章 Team Up Mission
今、部屋の中では。
いつも誰の前でも完璧な笑顔を崩さなかったプロヒーロー『エコー』が、ユカリの前で、子供のように涙を流している。
それはきっと、彼がこれまで誰にも見せたことがない――見せることを自分に許してこなかった涙だ。
轟は静かに、そっと扉から手を離した。
環も何も言わず、ただ真剣な眼差しで小さく頷く。
二人は足音を殺して静かに扉の前から離れると、少し先の壁に背をあずけた。
誰かが近づいてきてこの部屋の静寂を壊してしまわないよう、二人は静まり返った廊下の闇の中で、じっと見張りを立つように佇んでいた。
***
資料室の中。
どれくらいの時間が流れたのだろうか。
窓を叩く冷たい雨の音に混ざっていたエコーの泣き声は、少しずつ波が引くように落ち着きを取り戻していった。
エコーは真っ赤に腫れた目元をスーツの袖でゴシゴシと拭い、小さく鼻を鳴らした。
そして、自分の醜態に今さら気づいたように、酷く照れくさそうに苦笑いを浮かべる。
「……ごめん」
掠れた声で、途切れ途切れに呟く。
「高校生……それも、指導する立場の生徒の前で、こんなに泣き崩れるなんて……カッコ悪いよね」
ユカリはゆっくりと首を横に振った。
「謝らないでください」
「…………」
ユカリは膝の上で重ねていた手をそっと緩め、少しだけ照れたように、けれどどこまでもあたたかい笑みを浮かべた。
「私は……」
まっすぐにエコーの目を見つめる。
「今のエコーさん好きです」
「え……?」
「普段みんなの為に頑張ってるエコーさんも好きです」
ユカリは静かな声で言葉を繋ぐ。
「どっちのエコーさんも、すごく素敵です」
その言葉に、エコーはポカンと目を丸くした。
何百人もの遺声を聴き、何百人もの遺族の言葉を受け止めてきた彼が、まるで初めて言葉というものに触れたかのように、しばらく呆然とユカリの顔を見つめていた。
頑張っている自分も。
頑張らなくていい自分も。
どっちも本当の自分だ。
どちらも大事にするべき自分だ。
そう言われたような気がした。