第39章 Team Up Mission
エコーはそう言って、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
ノートを押さえる彼の手先が、かすかに震えている。
普通なら「そんなに抱え込まないでください」「私が手伝います」と言ってしまうかもしれない。
けれど、ユカリはどの言葉も口にしなかった。
彼にとって、このノートに言葉を書き留める作業は、誰かに代わってもらえるものではない。
彼自身が「亡くなった人と遺族」の間をつなぐ唯一の存在として受け取ったバトンであり、彼自身の尊厳そのものなのだと解っていたからだ。
エコーの背負う重荷を肩代わりしようとも思わない。
それはエコーの領域であり、エコーの生き様だからだ。
(この仕事の本当の価値も、辛さも……わかってしまう……)
寄り添うことと、踏み込むことは違う。
本当に必要な時に、必要な言葉だけをそっと差し出す。
それがユカリの優しさであり、目の前にいるエコーというヒーローの優しさでもある。
同じ感性を持っているからこそ、エコーがどれほど深く自分を削りながらこの優しさを維持しているのかが、恐ろしいほど鮮明に理解できた。
コンコン。
「先生。ご遺族の方がお見えになっています」
事務員の声に、エコーは一瞬だけ目を閉じ、立ち上がった。
ユカリの方へと振り返る。
そこにいたのは、揺るぎない、穏やかで完璧なプロヒーローの顔だった。
「行ってくるね」
「……はい」
ユカリは、静かに首を縦に振った。
「お気をつけて」
ただ、まっすぐに彼の目を見て、静かな声で送り出した。
エコーの背中がドアの向こうへと消えていく。
ユカリは一人残された部屋で、机の上のノートにそっと視線を落とした。
(……私にできること……)
それは。
彼がすべてを出し切り、本当に言葉を必要としたその時。
ほんの一言だけでいい。
彼の手を止め、息を吐かせてあげられるような、そんな「正しい言葉」を渡せる存在でいることだ。
ユカリは静かに呼吸を整えた。
彼というヒーローの優しさを誰よりも正しく理解した彼女はただ、静かにその時を待つことに決めたのだった。