第38章 日曜日
「……そーかよ」
爆豪は苦い感情を飲み込み、再び歩き出した。
前を向くその表情を、後ろをついてくるユカリが伺い知ることはできない。
やがて、見慣れた1年寮の灯りが視界に入ってきた。
そろそろお別れ。
そう思ったその瞬間——
ぐっ、と腕を掴まれた。
「……爆豪くん」
不意に足を止められて、振り返る。
ユカリは爆豪の腕を掴んだまま、少しだけうつむいていた。
「……っ、帰ってきたら、話があるの」
小さな、けれどはっきりとした声。
顔を上げたユカリの頬は、街灯の光の下でもはっきりわかるほど真っ赤に染まっていた。
上目遣いに爆豪を見つめるその瞳。
それは、恥ずかしさに潤みながらも、逃げ出さない強い決意を宿している。
(……ズリぃだろ、そんな顔)
ずっと、待っていた。
衝動に任せて口づけた合宿の日も。
どうしようもなくなって上書きした演劇祭の夜も。
保健室の狭いベッドで、互いの体温を貪り尽くすように肌を重ねたあの時だって。
ユカリは一度も、爆豪に対する本当の気持ちを『言葉』にしてはくれなかった。
どこかでずっと思っていたのだ。
ユカリの心は、轟の方に向いているんじゃないかと。
ユカリとすれ違うたびに、胸を爪で引っかかれるような焦りを抱えていた。
それなのに今日、子ども相手に「特別だよ」と伝えてくれた自分への視線。
そして今、耳まで真っ赤にして告げてきた「話がある」という言葉。
自惚れでも、都合のいい勘違いでもいい。
ずっとずっと求めて、喉から手が出るほど欲しかった先輩が、やっと自分のものになるかもしれない。
そんな甘い期待を、抱かずにはいられなかった。