第1章 浮かぶ青
目の前に立ち塞がる男は先程刹那がぶつかったであろう胸の辺りを不思議そうにさすると再び刹那を見て、視線と同じ温度の声で「君、何者?」と尋ねてきた。
刹那は彼の碧眼を食い入るように見つめながら、自分のことや今の状況を彼にわかるように説明するにはどうしたものかと思案していた。
その様子を黙って見ていた男性が突然「げっ!」と声を上げ、その整った顔を歪めた。
「泣いてんの!?」
「あ、いえ…」
刹那は急いで目元を拭った。
その間にも。
「ちょっと待って!これ、僕のせい?急に前に来たのは悪かったけどさぁ、尻もちくらいで泣く!?」
男は矢継ぎ早に話しており、それを聞いて刹那はハッと何やら思い至るとすぐに身体を起こし、改めて膝を折ると頭を下げた。
「ぶつかってしまい、申し訳ありませんでした。これは尻もちで泣いているのではありません……あの…」
「ん?」
顔を上げて、長身の男を仰ぎ見る。
「南蛮の方なのに日ノ本言葉がお上手なのですね」
「は?」
男は間抜けな声に口をあんぐりと開けた。
「今は南蛮の方もこんなにも流暢に日ノ本言葉を話すのですね、すごい時代です…」
そう続ける刹那に男の表情が別の意味で険しくなっていく。
「さっきから何言ってるかわかんないんだけど?」
「あぁ、すみません。もっと簡単な言葉じゃないといけませんね…えーっと…」
「いや!言葉はわかってる!わかんないのは君の思考!“南蛮の方”って何?」
刹那はキョトンとした顔をする。
「以前、南蛮の方は青い目だと聞いたことがありまして…お会いするのは初めてですが」
「いや、僕、バリバリ日本人なんだけど」
「え、では混血…?」
「生粋の日本人だよ!」
にわかには信じられないのか刹那の口からは「はぁ…」と気のない返事が出ていった。
男は何やらブツブツと呟き始め、その間も刹那は本当にこの人は日本人なのだろうか?と伺うような目で眺めていた。
刹那の視線を受けてか、男も再び刹那に向き直る。
「てか、何で逃げたの?」
男の質問に刹那は「あっ」と大変なことを思い出した。