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【呪術廻戦】死にぞこないの青

第1章 浮かぶ青


月を見上げていた。
落ちてきそうなほど大きくて丸い月を。

その先に自分が心を砕いている存在がいる、そう感じる扉の前で。
扉に背中を預けて足を崩して座りながら。
今は暗く寒い所に置かれているであろう彼らを思い、目からは絶えず涙が流れている。
この扉を開ければ、目の前に現れる長い階段を下れば、彼らに会うことなど容易いことなのに、刹那にはそれが出来なかった。
自分では彼らを守ることができない。
彼らを守るためには封印を解くことはできないし、天元の結界に頼るしかない。
145年前に天元に呪胎九相図を預けてからというもの、全国を回り八百比丘尼の存在を閉じてきた。
長い月日をかけて、ようやく八百比丘尼は不確かな伝承となり、刹那は九相図のいる高専近くに戻ってくることができた。
それでも普段であれば高専の敷地には近づかない。
人に見つかりでもして、どうして何故など訊かれようものなら何と説明すればいいかわからない。
しかし、どうしても感情が漏れ出す満月の夜は高専の敷地内にある屋敷が立ち並ぶこの場所に足が向いてしまう。
数え切れないほどの建物があり、幾千と扉がある中で、彼らの気配がする扉は来る度に場所を変えている。
刹那はいつも違う扉の前で、いつも同じ満月を見上げながら泣くのであった。
今日も満月が傾き始めるまでここにいさせてもらおう、そう思い、溢れる涙を拭うこともせずに佇む。
しかし、瞳に溜まった涙がその質量に堪えきれず一雫の涙として頬へ落ちていき、視界が明瞭になったその瞬間、見上げる満月の横に目を疑うものが見えた。
刹那は驚いて、再び目に溜まり始めた涙を手で拭い、空を仰ぎ見た。
大きな満月のその横に、人が、浮かんでいた。
遠くてはっきりとは見えないが、何となくこちらを見ているように感じる。
そう感じた瞬間に、その人物はこちらにひらひらと手を振り始めた。

(見られている…!)

刹那は反射的に立ち上がると森の方角へ走り始めた。
いや、走り始めようとした。
だが、目の前のものにぶつかってしまい、衝撃で後ろに尻もちをついてしまった。
自分は何にぶつかったのだろうと見上げると、目の前には上下黒い服に身を包んだ長身で白髪の男が立っていた。
男は冬の空のように凍てついた青い瞳で刹那を貫かんばかりに見下ろしていた。
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