第4章 会えば白
その声で刹那は姿勢を正し、まっすぐ五条の瞳を見つめる。
そして五条の「端的」を意識するように言葉を選びながら話す。
「天元様は恩人です。私が八百比丘尼になる前に出会った方で100年ほど一緒に過ごしました。私は何も知らない娘でしたので、そこでいろいろなことを学びました」
そこで一度言葉を切ると、少し顔が綻ぶ。
「あの100年が今までの人生の中で一番穏やかな時間だったと思います」
懐かしそうに、愛おしそうに、そして悲しそうに。
それもすぐになくなり、今度は顔が強張る。
「八百比丘尼になった後は、呪胎九相図を持った私を導いてくださいました。そのままでは危険な九相図を封印して、今まで彼らを保管してくださいました」
震えそうになるのを隠すように下唇を軽く噛み俯く刹那にとって、呪胎九相図は単なる呪物ではないことがわかる。
刹那は何かを飲み込むように一度大きく息を吸う。
「その時に天元様には薨星宮にいても良いと言われたのですが、私はやらなければならないことがあったのでお断りしました。それが145年前です。お断りした手前、戻ることも気が引けて満月の夜だけ高専を訪れておりました」
そして、再び五条を仰ぎ見る。
「端的に言うと、私は天元様が大好きです」
そう言って出会ってから一番の笑顔を見せる刹那を五条は直視出来なかった。
「わかった」
それだけ言うと、ドアノブに手をかけて開いた。
丁度廊下にいた夜蛾に強かぶつかったのだが、特に謝ることもなく、「じゃ、行こうか」とだけ言って歩き出す。
「悟!どこに行く?」
「だって、薨星宮行くんでしょ?薨星宮に続く扉ならもう刹那が見つけてるし」
十中八九、数時間前に刹那がいた扉が薨星宮へ続いている。
場所は覚えているので五条が先導する。
「五条さん」
後ろから刹那の声。
何かと思って振り返ると、指を進行方向とは別の方角を指している。
「もう薨星宮の扉は変わっているようです。今はあっちです」
「え、マジ?なんだよ、格好つけようと思っていたのにー」
五条の声にはいつもの調子が戻っていた。
ただ頭の中では天元が刹那をどう扱おうとしているのかを幾重にもシュミレーションする。
いくらパターンを考えても、どれも反吐が出そうだった。