第3章 招いて赤
「…先程、『任務が終わって帰ってきた』とおっしゃっていましたが、これからお休みになるのですか?」
刹那が五条を覗き込むように見上げている。
興味というよりは五条の様子を伺うような目で。
「いやいや、得体の知れない子を拾ってきたんだから寝てる場合じゃないでしょ。さっき話したいって言ったよね?君の話を聞いて、朝になったらここの学長に報告したいし」
(あれ?)
言い終わるか終わらないかくらいで違和感が走る。
刹那の表情がガラリと変わった。
先程までの可愛らしいあどけなさがなくなり、代わりに幾年超えて現れた年長者のような重みを感じる。
「私のことは捨て置いてお休みください」
声にも穏やかさはなく、凛と冴える響きがある。
しかし、五条というのはどんな年長者にも強者にも敬意も畏怖も抱かない男である。
そんな刹那の変化に驚きはするものの動揺はしない。
「だからさ、僕が寝てる間に君が何するかわからないでしょ?」
「では、私のことは縛ってでもおいてください」
「僕、女の子部屋に連れ込んで縛る趣味なんてないの」
「……」
「大丈夫、一晩寝ないのなんてザラにあることだから」
「…では、私は何も話しません」
「え?」
刹那の目に強い意思を感じる。
「あなたがお休みにならないなら私は何も話しません」
もう一度同じことをきっぱりと告げられる。
「えー、何それ?」
「私の話よりもあなたの休息の方が大切です」
「それ、決めるの君じゃないから」
「話すか話さないかは私が決めます」
(ちょっと誰が『チョロい』なんて言ったんだよー。めちゃくちゃガンコちゃんじゃん)
前言撤回して頭をボリボリ搔く五条を尻目に刹那は深々と頭を下げた。
「あなたがお休みになられた後ならお聞きになりたいことにお答えします。ですから、今はお休みください」
「あー、わかった。そんなに僕のこと休ませたいなら休ませてもらうよ?」
そうしないと文字通り話にもならないようなので、ついには五条が参ったとばかりに両手を上げ、刹那の要望を聞くことにした。
「はい…縛りますか?」
「縛らないよ!」
要求が通った途端、人の変わった刹那は引いていき、元の掴みどころのなさが戻ってきた。
自らの理解の外の人物に五条はため息をついた。