第2章 餞別/氷織/双子妹/微病み
そしてきっと、羊本人は「親の呪縛を受けずに自由を許されている」繭を許していない。
更に「親の呪縛を受けずに自由を許されているのに、自由に生きようとしない」繭を心底軽減している。
二つの罪で、静かに繭を裁いているはずだ。
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興味もないから詳しくは知らないが、サッカーの選抜だか養成所だかの施設に抜擢されたとか何とかで、ここ連日親たちはお祭り騒ぎだ。
そう思うとざわりと右腕が熱くなる。
明日はいよいよ出発だという前夜に、張り詰めた何が切れた気がした。
「あの人達」がいるとちゃんと兄とは話せない。
なぜなら、自分達が兄と話すことしか頭にないからだ。
だからあえて、寝入る直前の時間を狙った。
静かな部屋に伝わる隣の部屋のドアを開ける音、廊下を歩く音、微かな軋みが伝わった。
繭は音を殺してベッドを抜け出し、自室のドアを静かに開けた。
「……お兄ちゃん」
「……そう呼ばれるの何年ぶりやろ」
それはそうだ。
もうしばらく、繭は羊を避けているし、そちらも同じく空気を読んでいるからだ。
相変わらず柔らかい、声も、顔も、雰囲気も。
こちらに情もなんて1mmもないくせに、落ちこぼれの妹にまで貼り付けた“当たり障りない”適応を見せるところは本当に気持ちが悪いと思う。
「……いよいよだね」
「……せやな」
こういう時、何を言えばいいのかわからない。
羊ならば多分、気の利いた一言を自然に出せるのだろう。
「頑張ってね?」
微塵もそんなこと思っていないから言いたくない。
「家のことは心配しないでね?」
自分だけゴミを捨てて逃げようなんて許せないから言いたくない。
「もう二度と帰ってこなくていいよ?」
重いこの家を捨てたくて仕方ない羊を喜ばせるだけだから言いたくない。
必要なのは言葉ではないのかもしれない、繭にはそんな感じもした。