第1章 OKの理由/二子/クラスのギャル女子/日常
「なんで前髪そんな長いの?雰囲気狙い?」
「それ、結城さんに関係あります?」
「いや、ないケド」
「じゃあ、結城さんはなんで髪伸ばしてるんですか?」
「え?別に、特には……まぁ長い方がオンナっぽいかなーとか」
「なるほど。参考になりました」
「……っておい!ナチュラルに話そらすな」
「バレましたか」
「いいから顔見せろよ」
「……やめて下さい」
「さすがにこれは長過ぎだっつーの!」
席を立って、無理矢理オタクの前髪を片手でたくし上げてみた。
オタク男子は勝手にどこか乾いている印象だったが、触れる指先に乗る体温が意外と高い感じがしてそれは新鮮だった。
「……離してください……っ」
ものすごく不愉快そうな表情を全面に滲ませているのに。
想像以上にまん丸い目をいびつに歪める所が不本意にも愛らしく見えてしまった。
つられて繭の目も、ぽかんと丸くなってしまう。
「……なんだ」
「……なんですかっ」
「……意外と顔、可愛いじゃん」
「余計なお世話です」
「前髪切りなよ。ていうか切れ」
「ほっといて下さい。見られるの嫌いなので」
雑に払いのけられた繭の手だけが、取り残された。
二子は椅子の音まで立てて席を立つと、さっさとその場を離れてしまう。
「僕はこれからサッカーの練習があるので」
「……サッカー?」
「そうです」
「え?漫研とかオカ研じゃなくて?」
「……一応全国レベルなんですけど」
斜め上の返答をしてくるのだから、繭の方が今度は口が開いてしまう。
「は?なんかさっきからギャップ強すぎん?」
「……そんな変ですか」
「変。完全に“課題写させてくれる便利オタク君”だったし」
「さすがにカテゴリ失礼すぎません?」
会話をしながらも二子はさっさと足を進めている。
繭はその後ろ姿をポカンとした顔で見るしかなかった。
教室を出ようとするドアのあたりから、二子が静かな声を投げてくる。