第2章 餞別/氷織/双子妹/微病み
「繭」
お兄ちゃんと呼んだのも久しぶりだが、名前を呼ばれるのも久しぶりだった。
繭に届くのは淡く、ゆるい、柔らかさ。声も、雰囲気も、仕草までも。
すがりつきたくなる甘さをまき散らす売女みたいで怖気が立つほどだ。
「死ぬ気ないなら、せめて上手く壊れてな」
「……」
「安心しい。壊れてもどうせこの家何も変わらへん」
「…………っ」
それは希望なのか、それとも絶望なのか。
繭にはわからない現実を、やんわりじんわり見せつけてくる。
自分はうまく壊れているつもりなの?
繭はちゃんと出来ないダメなコなの?
自分は親に愛されているからその余裕?
有能で期待される人間だから自己顕示?
わからない
繭の中の自分が、他人が、うるさい声を出してくる。
体温の乗らない言葉なのに、何故か救いに聞こえるキモチワルサ。
希望の死骸だけが残る胸中に、ぬくもりだと錯覚させる麻薬のような。
これは羊がおかしいのか、繭の感覚がおかしいのか。
もう何もわからないのだ。
たった一つだけ、明確にわかることは、今からおおよそ30秒後に新しいコが仲間入りをする。
Fin