第1章 梨が落ちる
ダークネイビーの鋳物琺瑯なべの中で、ロールキャベツが美味しそうに煮えている。
「…………よし、出来た」
上等な出来栄えに満足して、琺瑯なべを火から下ろした。コトコトと音を立てて煮えていた煮汁が、一息に静かになる。
……――この高層マンションの一室に籠の鳥のように囲われて、しばらくになる。とはいえこの籠(マンション)、1階には24時間営業の住民専用のスーパーマーケットが、最上階にはこれも24時間営業で住民専用のプールとフィットネスジムが併設されているから、その気になればマンションから一歩も出歩かずに生活を完結出来てしまう。
(だからこそ修さんもこのマンションを選んでくれたのだろうけど…………
…………スーパーがあるのは本当、嬉しいわよね。
お陰で、こうして修さんにあたたかいご飯をつくってあげられるんだし)
……――今日は、久し振りに修さんがたずねてきてくれる日だった。
だから私ははりきって、食事の準備をしている。
(修さん、放っておくと冷麺ばっかり食べてるんだもの…………
冷麺は美味しいけど、そればかり食べているのは身体に悪いわ)
でも、誰にもたしなめられない限り自分の好きな食べものばかり食べてしまう、というのはなんだか幼気で、ちょっとかわいいとも思う。
(なんて…………ふふっ。
また『姐さんは親父っさんに甘い』って叱られちゃうかしら)
眉を顰める風間組の若頭さんの顔がありありと浮かんで、知らず、苦笑が唇に滲んだ。