第1章 『知られてはいけない、この気持ち』
その夜からだった。
𓏸𓏸は、前よりもずっとハンジを意識するようになってしまった。
廊下ですれ違えば、
名前を呼ばれた時の声を思い出す。
会議室の扉が開けば、
無意識に視線を探してしまう。
たった一度、
少し会話しただけなのに。
それだけで、
こんなにも苦しくなるなんて思わなかった。
「……はぁ」
人気のない倉庫で、
𓏸𓏸は小さく息を吐く。
備品整理を任され、
ひとりで木箱を運んでいた時だった。
「ずいぶん重そうだね」
背後から声が落ちてきて、
心臓が跳ねる。
振り返る前にわかってしまった。
「……っ、団長」
ハンジだった。
片手に書類を抱えたまま、
こちらを見ている。
「ああ、やっぱり𓏸𓏸だ」
自然に名前を呼ばれる。
それだけで、
胸の奥がじわりと熱くなる。
「こんなの一人で運んでたの?手伝うよ」
「だ、大丈夫です!」
反射的に答えたのに。
次の瞬間、
木箱がぐらりと傾いた。
「あ――」
咄嗟に伸びてきた手が、
𓏸𓏸の腰を支える。
どくん、と鼓動が跳ねた。
近い。
近すぎる。
支えられたまま、
𓏸𓏸は息を呑む。
ハンジの腕が腰に回っている。
体温が、服越しに伝わる。
「危ないな……」
低い声。
責めるでもなく、
ただ静かに心配する響き。
𓏸𓏸はまともに顔を上げられなかった。
「す、すみません……!」
「怪我は?」
「ありません……」
答えながらも、
腰に添えられた手が離れないことに気づく。
いや。
違う。
離れないんじゃない。
自分が、
離れてほしくないと思ってしまっている。
その事実に、
くらりと頭が熱くなる。
ハンジはそんな𓏸𓏸を見下ろし、
ふと目を細めた。