第5章 『その温度を、まだ知らないふりで』
「……っ」
触れた場所が、
じんわり熱を持つ。
ぼんやりした頭のまま、
𓏸𓏸はハンジの服をぎゅっと掴んだ。
呼吸が、
まだ上手く整わない。
近すぎる体温。
耳に残った吐息。
触れられた場所全部が、
まだ熱を持ったままだった。
「……𓏸𓏸」
名前を呼ばれる。
その声が近いだけで、
胸の奥がまた熱くなる。
次の瞬間。
ふわりと、
抱き寄せられた。
「……っ」
広い腕の中。
背中へ回された腕が、
ゆっくり引き寄せる。
それと同時に、
後頭部へそっと添えられた手。
指先が、
髪を包むみたいに優しく触れる。
そのぬくもりへ縋りたくなる。
ハンジの胸元へ額が触れる。
近い。
規則的な鼓動が、
じわじわ身体へ染み込んでくる。
そのまま、
頭上で小さく息を吐く気配。
「……もう、
前みたいには戻してあげないよ」
「……っ」
穏やかな声。
なのに。
抱き締める腕は、
離れる気配がない。
頭へ添えられた手が、
髪をゆっくり撫でる。
まるで、
大事なものを扱うみたいに。
「こんな顔見せといて、
何もなかったことになんてできる?」
熱を隠さないまま、
耳元へ落ちてくる。
「……ハンジ」
小さく名前を呼ぶ。
「ん?」
すぐ近くで返された声が、
やけに優しい。
その瞬間、
抱き締めていた腕へ、
少しだけ力がこもった。
その反応だけで、
胸の奥がいっぱいになる。
もう、
触れられる前には戻れない。
ハンジの温度を知ってしまった。
あの優しい手も。
近すぎる吐息も。
名前を呼ぶ声も。
全部。
きっとこれから先、
何度でも思い知らされる。
ハンジの隣が、
もう“同期”だけの場所じゃなくなってしまったことを。
_________fin.