第5章 『その温度を、まだ知らないふりで』
逃げたい。
なのに。
逃げたくない。
そんな矛盾した感情で、
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
ソファへ沈んだ身体の横へ、
ハンジの手がつかれる。
囲まれてる。
それだけで、
呼吸が浅くなった。
「……顔、真っ赤」
ハンジが、
小さく喉を鳴らす。
声は穏やかなのに。
我慢してるみたいな熱を帯びていて、
余計に心臓がうるさくなる。
「っ……見ないで……」
やっと絞り出した声。
なのに、
ハンジは離れてくれない。
「無理」
即答。
その声が低くて、
また身体が熱くなる。
「だって、
そんな反応してるのに」
喉元へ、
指先がそっと触れる。
「触るなって方が難しい」
「ぁ、……っ」
小さく肩が跳ねた。
その反応に、
ハンジがまた小さく笑う。
でも今度は、
からかうみたいな笑いじゃない。
限界を隠しきれないみたいな、
掠れた笑い方。
「ほんとにさ……」
ぽつりと落ちた声。
そのまま、
額がこつりと触れた。
近い。
呼吸が混ざりそうな距離。
「これ以上、
可愛い顔しないでよ」
掠れた声が、
耳の奥まで熱くする。
視線が絡む。
逃げられない。
そのまま、
ハンジの指先が頬へ触れた。
触れるだけみたいな、
優しい手つき。
「……だめだ」
ぽつりと零れた声。
次の瞬間。
頬へ触れていた手が、
そのまま後頭部へ滑り込む。
逃がさないみたいに、
柔らかく支えられた。
「𓏸𓏸」
呼ばれる。
近づいてくる熱。
あと少しで触れそうな距離で、
ハンジが一度止まった。
視線が揺れる。
「……その顔のまま黙られるの、
かなり危ない」
「っ……」
近い。
息が混ざりそうで、
頭が真っ白になる。
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