第5章 『その温度を、まだ知らないふりで』
その言葉の意味を、
ちゃんと考える余裕なんてなかった。
ただ。
離れたはずの熱を、
また欲しいと思ってしまった。
胸の奥が、
ぎゅっと苦しくなる。
そのまま、
ハンジが少しだけ距離を取る。
終わる。
そう思った瞬間。
気づけば、
服の裾を掴んでいた。
「っ……」
自分でも、
何をしてるのか分からない。
止めたかったわけじゃない。
でも。
離れてほしくなくて。
掴んだ指先が震える。
静かな沈黙。
そのあと。
ハンジが、
ゆっくり息を吐いた。
「……それ、ずるいなぁ」
さっきまで残っていた余裕が、
少し崩れる。
掴んだままの手へ、
ハンジの指先が重なった。
「そんな顔して引き止められたら、
離れられなくなるんだけど」
「ちが、……」
否定したいのに、
うまく声にならない。
その間にも、
ハンジの視線が熱を増していく。
「……もう無理かも」
小さく漏れた声。
次の瞬間。
ぐい、と腕を引かれる。
「っ、ぁ……」
ふらついた身体が、
そのままソファへ倒れ込んだ。
柔らかい感触。
逃げるより先に、
ハンジがすぐ目の前へ膝をつく。
片手は、
頭の横。
もう片方は、
逃がさないみたいに腰へ添えられている。
近い。
息が触れそうなくらい。
「……𓏸𓏸」
呼ばれた声が、
今までで一番熱い。
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