第1章 『知られてはいけない、この気持ち』
ーその日も、ただ遠くから見ているだけのはずだった。
夕方。
薄暗い廊下に、書類を抱えた兵士たちが行き交う。
𓏸𓏸は壁際に避けながら、小さく息を吐いた。
会議室の前。
扉が半分だけ開いていて、
中から低く落ち着いた声が聞こえる。
「……この配置だと、北側が薄いな」
「でも団長、それだと――」
「犠牲を減らすなら、こちらの方が確実だよ」
ハンジの声だった。
静かなのに、不思議と耳に残る声。
怒鳴らなくても、人を従わせる声音。
書類を抱えた𓏸𓏸は思わず足を止めてしまう。
覗くつもりなんてなかった。
でも、少しだけ見えた横顔に、視線が吸い寄せられた。
机に肘をつき、
真剣な目で地図を見下ろしている姿。
その指先が動くたび、
胸の奥が、じわりと熱くなる。
……だめだ
こんなの。
ただの憧れで済ませなきゃいけない。
団長と、一兵士。
話す機会なんてほとんどない。
向こうはきっと、自分の名前すらまともに覚えていない。
なのに。
廊下ですれ違うたび、
声が聞こえるだけで、
胸が勝手に反応してしまう。