第16章 ★
鍋の中では、スープが静かに揺れていた。
何も問題はない。
そう思えば思うほど、さっきの感覚だけが浮いて残る。
サンジは煙草を口にくわえたまま、火をつけようとして一瞬止まる。
「……」
火はつく。
それだけの動作なのに、やけに遅く感じた。
デッキの方では、まだルフィたちの声が続いている。
笑い声。水音。誰かの叫び。
いつも通りの音。
なのに、どこかだけ噛み合っていない気がする。
サンジは静かにキッチンを出る。
「おい、みか」
少しだけ声を張る。
デッキの空気がわずかに動く。
みかが顔を上げる。
「なにー?」
サンジは一瞬だけ間を置いて、軽く息を吐いた。
「ちょっと、こっち手伝え」
それだけ言って、すぐに視線を外す。