第5章 4
その声は、もう驚くようなものじゃなかった。
みかは少しだけ間を置いてから、自然に横へ行く。
並ぶ距離は、前よりずっと迷いがない。
サンジは煙を吐いたまま、海の方を見ている。
「……あの辺な」
「見えないです」
「だろうな」
軽く笑う。
それだけ。
少しの沈黙。
風が流れる。
もう、気まずさはない。
サンジは視線を海から外さずに言う。
「……奇跡の海ってやつがあると思ってた」
みかが横を見る。
「奇跡の海?」
サンジは少しだけ煙を吐いて、
「全部の海のいいとこだけ集めたみてぇな場所だ」
それだけ。
説明はしない。
続きもない。
みかは海を見る。
「……遠いですね」
ぽつりと落とす。
サンジは一瞬だけ横目で見て、すぐ前に視線を戻す。
「遠いからいいんだろ」
その言葉は軽いのに、少しだけ残る。
みかは黙る。
理由はわからないまま、海を見続ける。
風が少し強くなる。
サンジは火を軽く弾いて、
「行くぞ」
それだけ言う。
みかは一拍遅れて頷く。
「……はい」
並んで歩き出す。
距離は変わらない。
もうたまたま会う人ではなくなっていた。