第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
あの日から何年も経って――
高専で再会した先生は、もう“公園にいた変なお兄さん”ではなくなっていた。
「やっ、。久しぶり」
最初にそう呼ばれた時、ずっと閉じていた箱の蓋が開いた気がした。
覚えていてくれた。
それだけで、どうしようもなく嬉しかった。
先生にとっては、「昔、任務先で助けた子」が高専に入ってきただけかもしれない。
でも、私にとって先生は特別で。
誰にも言えなかった世界に名前をくれた人だから。
たぶん私は、初めて会った日からもう――先生を好きになっていたんだと思う。
まだそれが恋だなんて、知らなかっただけで。
高専で再会して、先生のそばにいる時間が増えるたびに、その気持ちは徐々に形を持ちはじめた。
訓練で手が触れる。
任務帰り、隣を歩く。
「頑張ったね」と頭を撫でられる。
その声で「」と呼ばれるだけで、返事をする前に心が先に揺れてしまう。
でも、先生はそういう人だった。
先生は、私だけに優しいわけじゃない。
虎杖くんにも、野薔薇ちゃんにも、伏黒くんにも。
きっと、私の知らない誰かにも。
だから、わかっていた。
私だけじゃない。
私だけが、先生の特別なわけじゃないってこと。
それを思い知らされたのは、ある日の任務帰り。
人通りの多い駅前のロータリーで、みんなで伊地知さんの車を待っていたときだった。
先生が「ちょっと電話〜」と言って、私たちの輪から抜け、少し離れた街路樹のそばへ歩いていった。
伏黒くんと虎杖くんが何か話していて、野薔薇ちゃんはスマホを見ている。
私もスマホを触りながら、虎杖くんたちの会話に耳を傾けていた。
でも、視線だけはどうしても先生の方へ向いてしまう。