第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
言ってから、自分で自分の言葉に少し引いた。
似たようなことを、何度も言われたことがある。
もっとちゃんと見て。
他の子のところに行かないで。
そのたびに、僕は笑ってかわしてきた。
曖昧な返事をして。
受け取る気なんて、最初からないまま。
なのに今。
その言葉を僕が言っている。
を見ると、目をぱちぱちさせて、意味がわからないという表情をしていた。
そりゃそうだ。
僕だって、自分で何を言ってるのか半分くらいわかってない。
「昔、言ったでしょ」
「……昔……?」
「は、僕とおんなじ特別で変なやつだって」
の目が大きく開いた。
「……覚えて、くれてたんですか?」
忘れるわけない。
見えてないもん、泣いてないもんって、バレバレの嘘ついて。
それでも、僕の言葉ひとつで目を輝かせて。
会えるよって返した僕の言葉を、疑いもしないで、何度も小さく頷いて。
僕のあげた喜久福を両手で大事そうに抱えていた、あの小さな女の子。
あの時からの中に、僕の場所ができた。
僕だけの。
なのに今は――。
「だから……」
僕は、少し強めに額をこつんと合わせる。
「その場所に、他のやつ入れないでよ」
は、目を丸くして何も言わなかった。
けれど、その頬がじわじわと赤くなっていく。
……なに、その顔。
そんな顔されたら、こっちが困るんだけど。
僕はの額から自分の額を離して、わざと軽く息を吐いた。
「ほーら、寝るよ」
そう言って、僕はの布団から抜け出した。
自分の布団へ戻り、彼女に背を向けて横になる。
背中越しに、が戸惑ったように小さく息を呑むのがわかった。
振り向かない。
振り向いたら、きっとまた余計なことを言う。
さっきよりもっと、どうしようもないことを。
だから振り向かない。
振り向いたら、たぶん負ける。
この僕が。
「……おやすみなさい、先生……」
が布団を掛け直しながら、僕の背中を見ているのがわかった。
……見ないでよ。
いや。
見てていいけど。
そんな矛盾したことを考えて、僕は目を閉じた。