第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「家ここ?」
「うん」
「じゃあな、歯磨いて寝ろよー」
そう言って、お兄さんはくるりと背を向けた。
その背中を見た瞬間、もう二度と会えない気がして。
「変なお兄さん!」
つい、大きな声で呼び止めてしまった。
お兄さんは振り返って、片眉をぴくりと上げる。
「誰が変なお兄さんだよ」
「あ、ごめんなさい……」
「どうした?」
「……ご、ごじょう、さん」
今日初めて会ったばかりの人なのに。
名前だって、今知ったばかりなのに。
「また……会える?」
心臓がどきどきしていた。
どうしてそんなことを聞いたのか、自分でもよくわからない。
「そうだな、気が……――」
五条さんは、ふと何かを言いかけてやめた。
少しだけ黙ってから、長い足を折りたたむみたいにして、私の前にしゃがみ込む。
頭にぽんっと手を置かれ、ちょっと乱暴にがしがしと撫でられた。
「……うん。会えるよ。は僕とおんなじ、特別で変なやつだからね」
それは、ただの慰めじゃなくて。
絶対なんてないのに、なぜか本当になる気がした。
不思議な魔法みたいな、約束。
それから、五条さんは小さな白い包みを私の手のひらに乗せた。
さっき五条さんが食べていたお菓子だ。
「喜久福。僕のお気に入り」
「ありがとう、五条さん」
「またね、」
五条さんはひらひらと手を振ると、くるりと背を向けた。
夕焼けの中で、白い髪だけがきらきらしている。
その遠ざかっていく背中を、私は喜久福を持ったまま、ずっと眺めていた。
それが――私と先生の最初の出会い。