第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
ギシッと畳が鳴って、敷布団が沈み込んだ。
嘘。
嘘でしょ。
すぐ背中に、私よりずっと大きな身体の気配。
ふわりと鼻をかすめたのは、旅館の石鹸の匂いだった。
なんで。
どうして、私の布団に。
頭の中が完全に真っ白になる。
羊は一瞬でどこかへ逃げていってしまった。
「……。起きてる?」
すぐ耳元に、先生の低い声が落ちた。
熱い吐息が耳にかかって、身体がびくっと跳ねそうになる。
起きてるって言ったら、どうなるんだろう。
先生は離れてくれるのかな。
それとも、もっと近づいてくるのかな。
どっちを想像しても、心臓が変な音を立てている。
私は布団を握りしめたまま、眠っているふりをしていると。
「……ふーん。寝てるなら、僕の好きにしていいよね」
先生の言葉の意味を理解するより先に、強い力でぎゅっと抱き寄せられた。
「……っ」
大きな腕が私の腰に回されて、完全に逃げ場を塞がれる。
背中には、先生の大きな身体がぴったりと張り付いていた。
先生が。
先生が、私を抱きしめてる。
どうしよう。
先生の体温が浴衣越しに伝わってくるだけで、頭の中までふわふわと熱くなっていく。
ずっと欲しかった距離。
夢みたいに近いのに、胸の奥がきゅっと痛い。
こんなふうに抱きしめられたいって、何度も願ってた。
嬉しい。
嬉しくないわけがない。
でも、本当にそうされたら、どうしたらいいのかわからない。
どうして。
さっきは、あんなに冷たいことを言っていたのに。
どうして今、こんなふうに触れるの。
嬉しいのに苦しい。
わからなくて胸の中がぐちゃぐちゃになる。
息を殺していると、浴衣の襟元に先生の指がかかった。
するりと肩口までずらされて、さっき廊下で先生に指で強く押された場所が、ちくりと痛んだ。
その場所に押し当てられた柔らかい感触と、歯の感触。
え。
待って。
これ、まさか。