第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
眠っている伏黒くんは、いつもの冷静な顔とは少し違って見えた。
眉間の力が抜けていて、どこか年相応に幼く見える。
その顔を見ていると、今度は別の熱が頬に上ってきた。
好きだと言われたこと。
抱き寄せられたこと。
裸を見られたこと。
胸を触ら……――
(っ、だめだめ!)
ぶんぶんと首を横に振って、逃げるように自分の布団へ潜り込んだ。
真ん中には、先生の布団。
その向こうには、伏黒くん。
布団を頭まですっぽりと被って、ぎゅっと目を閉じる。
けれど、いくら待っても眠気なんてやってこない。
静まり返った部屋。
耳に届くのは、壁にかかった時計の秒針の音と伏黒くんの寝息だけ。
それにしても……伏黒くん、よく寝られるな。
私は頭の中がごちゃごちゃして、全然眠れないのに。
男の人はみんなそういうものなのかな……。
そんなことを考えていると、部屋の戸が開く音がした。
慌てて、息を顰める。
畳を擦る足音が真っ直ぐに、こっちへと近づいてくる。
すぐ背後で布団が擦れる音がした。
私のすぐ後ろに敷かれた、真ん中の布団。
頭の先まで布団を被っているのに、背中越しに先生がそこに横たわる気配を感じる。
どうしよう。
先生がすぐ後ろにいる。
お風呂上がりで、どんな格好をしてるんだろう。
先生も同じ旅館の浴衣なのかな。
想像しただけで、身体中が熱くなった。
眠れない。
こんな状況で、眠れるわけがない。
もし、万が一このまま寝ちゃって。
変な寝言を言ったり、いびきとかかいちゃったりしたらどうしよう。
布団の端を握りしめる手に、じわりと汗が滲む。
心臓の音がうるさすぎて、先生に聞こえてしまわないか不安になるくらいだった。
落ち着こう。
こういう時は、羊を数えるといいってお母さんが言ってた。
羊を想像しながら、心の中でゆっくりと唱える。
羊が一匹。
羊が二匹。
羊が……三匹。
だめ。
全然、落ち着かない。
羊なんて、一匹も頭に浮かばなかった。
浮かぶのは、すぐ隣にいる先生のことばかり。
布団の中で、ぎゅっと身体を縮こまらせた。
このまま寝たふりをしていれば、きっと大丈夫。
そう思った直後。
――ふわり。
突然、頭まで被っていた布団が、後ろからそっと持ち上げられた。