第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
「さっきのは、僕が悪かった」
言い慣れない言葉は、やっぱりちょっと居心地が悪い。
それでも、の涙をそのままにしておく方が、もっと嫌だった。
の頭の上へ手を置いて、よしよしと撫でる。
拒否されなかっただけで、少し安心した。
「……僕、お風呂行ってくるね」
壁についた手も離して、いつものように振る舞った。
「え……?」
「もう遅いし。は、先に部屋戻ってて」
「あ、は、はい……」
「じゃ、おやすみ」
ひらひらと手を振って、に背中を向ける。
背中越しに、が部屋へ戻っていく足音が聞こえた。
その音が部屋の中へ消えたのを確認してから、僕は隣にあった自動販売機に拳を叩きつけた。
鈍い音が廊下に響いたけど、そんなのどうでもよかった。
(……僕、何がしたいの)
大雨の中、わざわざ旅館まで押しかけて。
恵とにイライラして。
挙句の果てに、あんな言葉をぶつけて泣かせて。
今までだって、誰かが泣いたって何も感じなかったのに。
あー、さっきから鼓動がうるさい。
の涙を見た時からずっと変だ。
ただ、が急に僕を見なくなったから。
恵なんかを見て、あんな顔をするから。
それが少し、気に入らなかっただけ。
そういうことにしておけばいい……なのに。
何度そう片づけても、胸のあたりに残った違和感は消えなかった。
「……何これ」
誰もいない薄暗い廊下で、思わずそんな声が漏れる。
もしかして僕……――。
そこまで考えて、呆れたように笑うしかなかった。
「……まじ?」