第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
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部屋の戸を閉めた途端、足から力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
先生の声がまだ耳から離れない。
『案外、誰にでもそういうことさせるんだね』
思い出しただけで、息がうまく吸えなくなった。
違う。
違うのに。
誰でもいいわけない。
そんなつもりじゃなかった。
伏黒くんに触れられて、拒みきれなかったのは本当。
あの時、どうしたらいいのかわからなくなったのも本当。
でも、誰でもよかったわけじゃない。
そんなふうに見られたことが苦しい。
よりによって、先生に。
軽蔑された。
もう、前みたいに見てもらえないかもしれない。
前みたいに笑って、名前を呼んでくれないかもしれない。
好きになってもらえなくてもいいから。
先生の一番になれなくても。
特別にしてもらえなくても。
(……嫌われたくない)
さっき先生が拭ってくれたはずの涙が、またぽろぽろと溢れてくる。
浴衣の袖で乱暴に涙を拭ったが、拭いても拭いてもあとからあとから溢れてくる。
でも、先生はどうして謝ってくれたんだろう。
『……ごめん』
『さっきのは、僕が悪かった』
先生は悪くない。
悪いのは私なのに。
それなのに、先生は謝ってくれて。
初めて会った時のように、服の袖で私の涙を拭いてくれた。
だから余計に、わからなくなる。
先生は、私のことを軽蔑したんじゃないの?
私が急に泣き出して困ったからかな。
考えても、答えは出ない。
先生の気持ちがわかったらいいのに。
ふと部屋の中を見ると、伏黒くんが布団で横になっていた。
「……伏黒くん?」
小さく声をかけるが、返事はない。
涙を拭きながら近づいて、顔を覗き込んだ。
「……寝ちゃったの?」
規則正しい寝息だけが聞こえる。
私が部屋を出ていくまで、起きてたよね。
どうしてこんなに深く眠っているんだろう。
疲れてたのかな。
伏黒くんが寝ていて、どこかでほっとしている自分がいた。
もし起きていたら、どんな顔をすればいいのかわからなかったから。