第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
「えっ、あ……えと、えと……っ」
は壁に背中を押し付けて立ち上がりながら、しどろもどろに言葉を探している。
視線を泳がせて、必死に言い訳を考えている。
そんな顔、初めて見た。
いつも素直で、僕に隠し事なんてできなかったのに。
は俯き、落ち着かない手つきで顔にかかった髪を耳にかけた。
その拍子に、少しだけ緩んだ浴衣の襟元から白い首筋が覗く。
そこに残ったものに、視線が張り付いて動けなくなった。
一箇所だけじゃない。
首筋から鎖骨のあたりにかけて、赤い痕がいくつも残っている。
恵がつけたんだ。
僕の知らないところで。
にこんなものを。
頭の芯が、じりっと焦げるような音がした。
「……先生?」
僕が急に黙り込んだから、は不思議そうにしている。
自分がどんな痕をつけられているのか、全く気づいていない顔。
「ひっ……!?」
を壁際へ追い詰めて、顔のすぐ横にドンと手をついた。
薄暗い廊下に鈍い音が響く。
がビクッと身体を震わせて、僕を見上げた。
……やっと、こっち見た。
「せん、せ……?」
戸惑う声には答えず、首筋へと指を伸ばした。
そのうちの一つに、親指の腹を強く押し当てる。
「……っ」
僕の指先が触れた瞬間、が息を呑んだ。
の肌に残った、他人の痕跡。
ずっと僕ばっかり見ていたくせに。
僕の知らないところで、こんなものつけられて。
指先から恵の熱が伝わってきそうで、ひどく目障りだった。
硝子を呼んで、今すぐ消してやりたい。
「……。これ、どうしたの?」
指の腹でそこをなぞりながら、平静を装って問いかける。
「へ……?」
がきょとんとした顔をした。
本当に、何のことか全くわかっていないみたい。