第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
僕がこの部屋に来てからずっと。
が、ただの一度も僕と目を合わせようとしないことだった。
いつもなら僕の姿を見た瞬間に、顔を赤くして。
嬉しそうに僕だけを見つめてくるくせに。
今は、僕から逃げるように顔を伏せている。
……なんか、ムカつく。
「……ま、いいけどね」
僕はゆっくりと身体を起こした。
「五条先生?」
警戒する恵を無視して、その後ろで小さく丸まっているの腕を掴んで引き寄せた。
「は、僕が来て嬉しいよね?」
引き寄せた腕を指先でなぞると、の肩がびくっと跳ねて、弾かれたように顔が上がった。
頬は熱を持ったように赤い。
僕に触れられて、ちゃんと反応している。
それなのに、唇だけは何かを隠すみたいに、きゅっと硬く結ばれていた。
そのまま僕を見ていればいいのに。
の視線は迷うように揺れて、恵の方へ逸れた。
なんで、そこで恵を見る必要があるの?
「は、はい……っ。先生来てくれて嬉しいです……」
そう答えたくせに、は僕の手をやんわりと外して、そそくさと立ち上がった。
するりと、手のひらからの体温が抜け落ちる。
僕は、空っぽになった手を見下ろした。
……え?
僕、避けられてる?
が。
僕を。
「あ、そうだ……先生、お茶飲みますか」
逃げる口実を見つけたみたいに、は部屋の隅に置かれたお茶セットへ手を伸ばした。
その動きは明らかにおかしい。
急須を取る手つきも、湯呑みを並べる指先もぎこちなくて、動揺しているのが丸わかりだった。
「……っ、お茶っ葉、切れちゃってるので。旅館の人にもらってきます!」
は弾かれたように立ち上がり、部屋を飛び出していった。