第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「やっぱ見えてんじゃん」
「……ぁっ」
あんなふうに目の前で消えたら、見えていないふりなんてできなかった。
でも、さっき「見えてない」って嘘をついてしまったから。
今さら何を言えばいいのかわからなくて、口をつぐんだ。
お兄さんは、手に持っていた紙袋をがさがさと開けて、中から小さな包みをひとつ取り出す。
「ま、いいや」
そう言って、包みを開けると、白いおもちみたいなものをぱくっと口に入れた。
「あれは呪い」
「のろい?」
「そ。簡単に言えば……人が嫌なこと考えたり、怖がったり、そういうのがぐちゃっと固まったやつ」
難しくて、よくわからないけど。
でも、ひとつだけわかった。
今までのあれは、私の見間違いじゃなかったんだ。
だったら……ずっと誰にも聞けなかったことを。
この人になら、聞いてもいいのかもしれない。
「……あ、あれが――」
ランドセルの肩ベルトをきつく握り直す。
「あれが見える私って……変?」
ずっと人に言えなかったこと。
同じように見えるお兄さんに、聞いてしまった。
お兄さんはもぐもぐして、ごくんと飲み込んでから。
「変だよ」
あっさりと、そう返した。
へん。
へん、なんだ。
その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
やっぱり。
やっぱり、私おかしいんだ。
普通じゃないんだ。
泣いちゃだめだと思うのに、目にじわっと涙が集まっていく。
どうしても止められなくて、ぽろぽろと足元の砂に雫が落ちた。
「……え、なんで泣いてんの?」
お兄さんが、目を丸くしてこっちを見ていた。
慌てて袖で目をこすった。
私だって知らない人の前で、こんなふうに泣きたくない。
でも、一度こぼれた涙はなかなか止まってくれなかった。
「な、泣いてない……ぐすっ」
「いや、泣いてるじゃん」
「泣いてないもん……うぅ……」
「……ったく、強情だな」
お兄さんは困ったように頭をかいた。
「普通のやつらから見たらね。でも、僕も変だから一緒」
「……お兄さんも?」
「そ。めちゃくちゃ変。で、最高に特別」
最高に、特別。
変なのに。
おかしいのに。
普通じゃないのに。
それでも、特別って言っていいの?