第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「君、見える側だし、持ってる側でしょ?」
見える側。
持ってる側。
そんなふうに言われると、私が普通じゃないみたいで。
「……見えてないし……持ってない」
嘘をついてしまった。
ほんとは見えてる。
変な生き物だって出せる。
でも、そんなこと言ったら、もっとおかしい子だと思われる。
「あぁ? さっき、見えるかって聞いてきただろ。嘘つくなよ」
「見えてないもん」
「じゃあ、なんであれ見ないようにしてんの?」
「そんなことないもんっ!!」
つい声が大きくなった瞬間、黒いものがぬるりと動いた。
『あそぼぉおおおお……』
いや。
来ないで。
怖くて、我慢してた涙がこぼれそうになる。
お兄さんは、そんな私の横を通り過ぎて、ブランコの方へ向かっていく。
「だめ……!」
お兄さんが振り返った。
「ん?」
「行ったら、だめ……! 食べられちゃうかもしれない……!」
黒いものが、本当に人を食べるのかは知らない。
でも、あれは怖くて、近づいちゃいけないもの。
なのに、お兄さんはけろっと平気な顔をしていた。
「食べられる? 僕が?」
おかしそうに笑って、お兄さんはサングラスに指をかける。
「ないない」
少しだけ、サングラスが下がって。
その隙間から、隠れていた目がちらっと見えた。
(きれい……)
空みたいな色。
でも、ただの空じゃない。
夏の日のプールみたいにきらきらしていて、ガラス玉みたいに透き通っている。
私はもう黒いものより、お兄さんの青い目から目が離せなくなっていた。
お兄さんが、ほんの少しだけ指を動かすと、ぐしゃ、と何かが潰れる音がした。
はっとしてブランコの下を見る。
さっきまでそこにいた黒いものは、跡形もなく消えていた。
お兄さんは、何事もなかったみたいに戻ってくる。
「はい、おしまい」
「すごい……! すごい! どうして消えたの!?」