第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
……え?
その声は……先生?
どうして、先生がここに?
すぐ上にいる伏黒くんを見ると、彼も目を見開いている。
私と同じように、何が起きているのかわからない顔をしていた。
甘く痺れていた頭の中が、一気に冷水を浴びたように冷えていく。
心臓がさっきとは違う意味で、ばくばくと大きな音を立てていた。
「おーい、開けてよ。二人とも起きてるよね」
あ、開けた方がいいのかな。
どうしよう。
どうしよう。
今、こんな格好で。
私、伏黒くんとさっきまで……。
暗闇の中で、伏黒くんと視線が合った。
いつもならすぐに状況を判断する伏黒くんが、今だけは何を言えばいいのかわからないみたいに、唇を引き結んでいる。
「ねえ、聞こえてるー? 寝たふりしても無駄だよー」
「開けてくれないと、さすがに僕ちょっと寂しいんだけど?」
先生が扉の向こうで、騒いでいる。
なのに、私たちは返事ができなかった。
その沈黙が、余計にまずいものみたいに膨らんでいく。
「……ねえ」
急に、先生の声の温度が変わった。
「見えてるよ」
その一言で。
私と伏黒くんは、弾かれたようにバッと身体を離した。
見えてるって、どういう意味?
いや。
先生の目なら、部屋の中だって見えていてもおかしくない。
私たちがどれくらい近かったかも。
伏黒くんが私に触れていたことも。
全部……?
頭の中が真っ白になっていると、伏黒くんの手が私の髪に触れた。
耳の横に落ちていた髪を後ろへ流されて、心臓が跳ねてしまう。
こんな状況なのに。
先生が扉の向こうにいるのに。
伏黒くんの指先は、いつもと同じくらい優しかった。
「……俺が出る」
伏黒くんは私の浴衣を一瞬だけ見て、それから低い声で言った。
「は……その格好、なんとかしろ」
「ぇ……」
言われて自分の身体を見下ろす。
ほどけかけた帯。
だらしなく開いた胸元。
太ももまでめくれ上がった裾。
(な、なんて格好……!?)
一気に顔から火が出そうになる。
でも、待って。
伏黒くん、暗くて見えないって……。
(さっき、やっぱり見えてたのっ!?)
文句を言いたかったけど、今はそれどころじゃない。