第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
好きって言ってくれたことが嬉しかったからこそ。
怖かったことまで、なかったことにしちゃいけないよね。
ちゃんと向き合うって、きっとそういうことだ。
「でも……さっきのは……ちょっと怖かった」
突然押し倒されて、キスされて。
どうしたらいいかわからなくて。
それに、ファーストキスだったんだよ。
「……悪かった」
「うん……」
「本当に、ごめん」
いつもなら、もっとぶっきらぼうに言うのに。
今の伏黒くんは、私よりずっと苦しそうな顔をしている。
どうして、そんな顔をするの。
そんな顔をされたら、責める言葉までどこかへ行ってしまう。
「私、せ、先生のこと……好きだから」
「……わかってる」
「今すぐには、返事できないけど……」
「……」
「でも、伏黒くんのことも……ちゃんと考えるから。少し、待っててくれる?」
それが、今の私に言える精一杯だった。
こんな私は最低なのかな。
先生のことが好きなのに。
それなのに、伏黒くんの真っ直ぐな告白が胸のどこかに残ってしまっている。
ごまかすことも、すぐに断ることもできたけど。
ちゃんと伏黒くんと向き合いたかった。
「……わかった」
伏黒くんはそう言って、私から身体を離そうとした。
けれど、途中で動きが止まる。
「ふしぐろ、くん……?」
彼はまた、私の首筋に顔を埋めてしまった。
あれ。
どうしたんだろう。
急に具合が悪くなったのかな。
「……だったら」
伏黒くんの声が、耳元で低く響く。
「今、考えろよ」
「……え?」
「明日でも、そのうちでもなくて」
「伏黒くん……」
「今、俺のこと考えろ」
考えるとは言ったけど、今……!?
何て返せばいいのかわからず、言葉を探していると。
伏黒くんの手が、私の浴衣の合わせに触れた。