第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「ど、うし……」
どうしてと聞きたかった。
でも、その答えを聞き終わる前に、また唇が重なった。
唇の隙間をなぞられて、反射的に息を吸った瞬間――口の中に伏黒くんの舌が入ってきた。
え……?
な、なに、これ……。
びっくりして舌を引っ込めようとした。
でも、逃げた先まで追いかけられて、伏黒くんの舌先が私の舌に触れる。
待って、待って待って。
キスって、こういうこともするの……!?
違う違う。
今は、そうじゃなくて!
こんな伏黒くん、見たことない。
振り払わなきゃ。
嫌だと言って、突き飛ばさなきゃ。
私は、五条先生が好きで。
ずっと、先生のことばかり見てきた。
大人で、強くて、手が届かなくて。
誰のものにもならない、あの人が――それでも好きで。
なのに。
それなのに――。
どうして、突き放せないんだろう……。
先生からの電話は、いつの間にか鳴り止んでいた。
さっきまで怖かった雷の音も、もう遠い。
今、私にわかるのは、すぐ上にいる伏黒くんの体温と。
口の中で舌が絡む、湿った音だけだった。
「……ん、ぁっ……」
ダメだよって言わなきゃいけない。
いけないのに……。
自分の中に生まれたその感情に、激しく戸惑う。
伏黒くんとのキスは熱くて、知らないところまで連れていかれそうで。
怖いのに、全部振り払えない。
このまま流されてしまいそうになる。
「……っん、ふ……ぅん……」
でも、キスって苦しい。
息……いつすればいいの。
頭がぼうっとして、これ以上は本当に息が続かない。
伏黒くんの肩をぺちぺちと叩くと、ようやく唇が離れた。
「……なんで、こんなこと――」
今思うと、伏黒くんは旅館に着いてからずっと変だった。
いつも冷静な彼が、どこか落ち着きがなくて。
私がどんくさくて、迷惑をかけてしまったから。
雷で騒いで。
布団のことでも困らせて。
それで、怒らせてしまったのかもしれない。
でも、返ってきたのは全然違う答えだった。
「好きなんだ……のことが」