第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
***
伏黒くんと初めて会った時、面倒くさそうにため息をつきながら、それでも私の手を握り返してくれた。
任務ではいつも助けてくれるし、必要な時にはちゃんとアドバイスもくれる。
この前は、任務終わりにレモンティーまで買ってくれた。
一見無愛想に見えるけど、本当は誰よりも面倒見がよくて優しくて。
いつも周りを見ていてくれる頼れる同級生。
今だって。
雷が怖くてパニックになってしまった私を、呆れながら助けてくれるんだと思っていた。
そう、思っていたのに――。
伏黒くんのスマホの画面に、『五条先生』の文字が見えて。
「で、出た方が……もしかして先生、心配してるかも……」
私がそう言った瞬間、伏黒くんの空気がはっきりと変わったのを感じた。
暗闇の中で見上げた彼は、私の知っている『優しい同級生』じゃなくなっていた。
「……五条先生なんか、やめろ」
伏黒くん、怒ってる?
やめろって、どういう意味?
ただ、電話に出た方がいいって言おうとしただけなんだけど。
「……あ、えと……」
気に障ること言っちゃったかな、そう思って謝ろうとした瞬間――
視界が塞がって。
「……んっ、」
唇に熱くて柔らかいものが触れていた。
何が起きたのか、すぐにはわからなかった。
伏黒くんの顔が、すぐ目の前にある。
近い。
近い近い近い。
え、なんで。
伏黒くん、近い。
というか、これ。
これって。
これは、たぶん。
たぶんじゃなくて。
私……伏黒くんに、キスされてる……?
「……っ、ふし、ぐろくん……まっ……」
わずかに離れた唇の隙間から名前を呼ぶと、伏黒くんがパッと唇を離してくれた。
私を見下ろす、深い翠色の瞳。
怒っているわけじゃない。
でも、いつもの彼じゃない。
頭が追いつかない。
ただの同級生だったはずなのに。
どうして急に、こんな。