第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
(……戻る?)
何もなかった顔で、また前と同じ距離感に戻る。
が五条先生を見て笑うたびに、傷つくたびに。
俺は、何でもないふりで隣にいる――――
そんなこと、もうできるわけねえ。
知ってしまった。
俺の名前を呼んだその声も。
俺だけを見ているその目も。
こいつの唇の柔らかさも。
全部、手放したくなかった。
(……俺を見ろよ)
今度はもっと深く。
何も考えられなくなるくらい、強く唇を重ねた。
――もう、同級生には戻れなくてもいい。
わずかに開いた唇の隙間を割って、強引に舌を入れ込む。
上顎をなぞって、逃げようとする舌を捕まえた。
ちゅ、と深く吸って、自分の舌を擦り付ける。
逃げようとする舌に何度も絡みついては、唾液ごとかき混ぜた。
「……ん、ぁっ……」
息継ぎの合間にこぼれるその甘い声。
それが耳に届くたび、痺れるような熱が全身を駆け巡る。
雷の音も。
雨の音も、もう聞こえない。
感じるのは……すぐ下にいるの体温と乱れた息遣いだけ。
畳の上で震えていたスマホも、いつの間にか静かになっていた。
俺はもう夢中だった。
交わる唾液すら、ありえないくらい甘く感じる。
(なんだよ、これ……)
頭がおかしくなりそうだ。
ただ、どうしようもなく――もっと欲しくなる。
正直、抵抗されると思った。
嫌がって、思いきり突き飛ばされると。
最初は逃げようとしていたも、今は俺のキスを受け入れているように見えた。
嫌がっていない。
いや、そう思いたいだけなのかもしれない。
「……っん、ふ……ぅん……」
息が苦しくなったのか、が俺の肩を弱々しく叩いた。
ゆっくりと唇を離すと、二人の間に荒い息遣いだけが残る。