第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「……なんで、こんなこと……」
暗闇に目が慣れて、すぐ下にあるの顔がはっきりと見える。
目には薄く涙が溜まっていた。
なんでって……。
そんなの――
「好きだ……のことが」
その言葉は、俺の口から滑り落ちるように溢れた。
「……ぇ……?」
が目を丸くして固まっている。
こんな状況でそんなことを言われても、すぐに理解できるわけがないよな。
「こんなことして、悪いと思ってる」
嘘じゃない。
押し倒して、無理やりキスまでして。
最低なことをしている自覚はある。
俺は掴んでいたの肩から手を離し、布団に手をついた。
「お前が、五条先生のこと好きなのも知ってる」
その瞬間、の動きが止まった。
まさか知られているとは思わなかった、という顔だ。
顔を赤くして、言葉を探すように唇を震わせている。
「今はそれでもいい」
言いながら、自分でもバカだと思う。
本当は、全然よくなんてないくせに。
「俺のことも……考えて欲しい」
せめて、あの人の横に並べるだけの隙間が欲しい。
は何も言わなかった。
でも、その瞳の奥にはっきりと戸惑いが見えた。
五条先生のこと。
俺のこと。
不器用なくらい真面目なこいつは、必死に答えを探しているんだろう。
嘘がつけないから、先生への気持ちはないことにはできない。
でも、俺の言葉を無視することもできない。
しばらく沈黙が続いたが、がそっと口を開いた。
「ぁ、……えっと」
は困ったように瞬きをした。
何かを言おうとして、言えなくて。
俺の浴衣をきゅっと握って、また俺を見る。
何度か迷うように呼吸をして、それから、ようやく。
「す、好きって言ってくれたこと……嬉しかった、です」
「なんで敬語」
「ぁ……っ」
は慌てたように口元を押さえた。
その仕草があまりにもいつもので。
まだ俺にそんな反応を返してくれることに、少しだけ救われる。
「でも……」
「……」
「さっきのは……ちょっと怖かった」
何も言えなかった。
そうだよな、好きだと言えば許されるようなことじゃない。