第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
ずっと言いたかった言葉が。
隠していた自分の思いが。
自分でも信じられないくらい自然と、口からこぼれていた。
「……あ、えと……」
が何かを言おうと口を開く。
またあの人の名前が出てくるかもしれないと思ったら。
聞きたくなかった。
その名前だけは、今だけは。
どうやって距離を詰めたのか、自分でも覚えていない。
どうしようもない衝動のまま――
その唇を自分の唇で塞いでいた。
「……んっ、」
想像していた以上に、の唇は柔らかかった。
触れただけの口付け。
それなのに、気持ちよくて頭の中が痺れた。
驚いたが、俺の肩を押し返して離れようとする。
当然だ。
拒まれている。
それでも、その手が俺の浴衣を掴んだまま離れないことに、最低な期待をしてしまった。
今は俺だけを感じて欲しくて。
一瞬でもあの人のことを忘れて欲しくて。
「……っ、ふし、ぐろくん……まっ……」
震える声で名前を呼ばれた。
その途切れた言葉で、ようやく我に返る。
唇を離すと、は浅く息を吸った。
怯えている。
俺を見上げる目が、はっきりとそう告げていた。
「……っ、ごめん」
謝るくらいなら、やめればいい。
そんなことはわかっている。
「ど、うし……」
が信じられないものを見るように、俺を見つめ返した。
俺がこんなことをするなんて、欠片も思っていなかった顔。
ただの同級生だったはずの俺に押し倒されて、戸惑っているのがわかる。
今なら、まだ引き返せる。
雷のせいだとか、ただの気の迷いだとか。
適当な理由を作って本気で謝れば、底抜けにお人好しなこいつは、きっと俺を許してくれる。
今日のことはなかったことにして、また明日から元の「同級生」に戻れるかもしれない。