第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「ひっ――」
が息を呑むのと同時に、さっきよりもさらに大きな轟音が旅館を揺らした。
「ひゃぁぁっ!」
短い悲鳴と共に、が俺の胸に飛び込んでくる。
「……っ!」
反射的に抱きとめようとした。
だが、腰が抜けていたの体重がまともにかかり、俺の足も畳の上で滑る。
「危な――」
体勢を立て直す間もなかった。
俺たちは身体が重なり合ったまま、布団の上へ倒れ込んだ。
背中が敷かれた布団に沈む。
スマホが手から滑り落ち、畳の上を転がった。
「いっ……」
俺の上に、が覆い被さるように倒れている。
部屋を照らしているのは、床に落ちたスマホのライトの細い光だけ。
その薄暗い光の中で、俺の胸に顔を押し付けて震えているの体温が、浴衣越しに直接伝わってくる。
「……おい、大丈夫か」
は俺の浴衣をぎゅっと握りしめたまま、こくこくと頷いた。
「ごめ、ごめん……足、滑って……」
「……」
耳元で聞こえる、うろたえた声と吐息。
首筋にかかる、少し湿った髪。
鼻を掠める、同じシャンプーの匂い。
そして、浴衣越しでもわかる、女の身体の柔らかさ。
ダメだ。
今日必死に抑え込んでいたものが、一瞬で暴発しそうになる。
「……どけ」
「えっ?」
「早く、どけって言ってんだ」
ひどく乱暴な声が出た。
自分でも驚くほど、余裕のない声。
が俺の声にビクッとして、慌てて身体を起こそうとする。
けれど、完全に腰が抜けているのか、腕に力が入らず、再び俺の胸の上に崩れ落ちた。
「あ……ごめん、力が入らなくて」
「っ、……!」
これ以上お前の身体に触れてると、本当に我慢できなくなる。
俺は、の肩を掴んで無理やり引き剥がそうとした。
でも、その顔を見た瞬間、掴んだ手から力が抜ける。