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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**


「はい、どうぞ」



が湯呑みを両手で持って、そっと差し出してくる。



「……さんきゅ」



湯呑みを受け取ると、がふふんと得意そうに言った。



「あ、ちょっとぬるめに淹れたよ」

「……」

「熱いの、苦手だったら困るかなって」

「……ぷっ」



思わず、吹き出してしまった。



「え? 笑うところ?」

「いや……」



初めて会った時のことを思い出す。



『ご、ご迷惑をかけないように頑張ります! 荷物持ちでも、ぬるいお茶淹れるのでもなんでもしますから……!』



あの時、確かにそう言っていた。
まさか、本当に淹れてくれるとはな……。



「……律儀すぎだろ」

「え?」

「なんでもない」



笑いを堪えるように湯呑みに口をつける。
熱すぎないお茶が、喉を通っていく。



「旅館のお茶って、なんでこんなに美味しく感じるんだろうね」

「……普通だろ」

「えー、そうかなぁ。家で飲むのより絶対美味しい気がする」



テレビでは、温泉街の食べ歩き特集が流れていた。
画面いっぱいに、焼きたての団子が映る。



「わ、あれ美味しそう……」

「駅に似たようなの売ってたな」

「え、本当?」

「明日、迎えが来る前に時間あったら見に行くか」

「うん。行きたい」



任務中でもなく、誰かと一緒でもなく。
こんなふうに二人で他愛もない話をするのは、妙に不思議だった。

が楽しそうにしている。
それを見ているだけで、さっきまでの黒い感情が嘘みたいに消えていく。
……単純だな、俺も。


しばらくテレビを見ながら話をしていると、時計の針は日付をまたごうとしていた。



「……そろそろ寝るか」

「あ、そうだね」



俺はリモコンを手に取って、テレビを消した。
途端に、部屋に残ったのは窓の外の雨音だけになる。


さっきから逸らしていた、二組の布団に嫌でも目がいった。
俺はこれから、この距離でこいつの隣に横になる。
急に現実感が戻ってきて、喉が渇いた。


が立ち上がり、壁際のスイッチに指をかける。
部屋の明かりが消える、その直前――
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