第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
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窓の外は、まだ雨の音が響いていた。
テレビからは、地方のバラエティ番組が流れている。
は座って、画面を見ながら可笑しそうに笑っていた。
さっき俺が離すなと言った、その布団の上で。
俺は壁にもたれながら、その横顔をぼんやりと見ていた。
そばに置いてあった、スマホが震える。
画面を見ると、補助監督からだった。
『雨が止む明日の朝、お迎えにあがります。ご宿泊されている旅館の場所を教えてください』
位置情報を添付して、『了解しました。よろしくお願いします』 と簡単に返信を済ませる。
「ふふっ……なにこれ、面白いね」
そのやわらかい声に顔を上げると、が膝を抱えて笑っていた。
浴衣の裾が少し乱れて、白い足首が覗いている。
また余計なことを考えそうになって、逃げるように視線を手元のスマホに戻した。
意味もなく開いたはずのメッセージアプリで、連絡先をスクロールする。
そして、その名前の上で指が止まった。
『五条先生』
俺は画面をタップして、文字を打ち始めた。
『任務帰りに電車が止まり、本日は高専に戻れません』
『近くの旅館で一泊します。部屋が一つしか空いていなかったため、と同室です』
ただの担任への報告。
事実しか書いていない。
でも、これを読めば、あの人が俺たちの状況を想像できないわけがない。
迷うことなく、送信ボタンを押していた。
既読はすぐにはつかない。
それでいい。
五条先生に知らせたかった。
は今、俺の隣にいると。
あんたが曖昧な距離で囲っているの隣に、今夜は俺がいる。
こんなやり方が、子供じみてることくらいわかっている。
それでも、このメッセージを取り消す気にはなれなかった。
「伏黒くん、お茶飲む?」
振り返ったが、急須を持ち上げてこっちを見る。
「……ああ。もらう」
スマホの画面を伏せて、畳に置いた。
まるで、自分の内側で渦巻く真っ黒なものを隠すように。